腰痛は、腰だけの問題ではないのかも?
定期的にトレーニングをしていてるのに、数ヶ月毎に腰が痛くなる、ギックリ腰に近い症状が出てくるなど慢性的な腰痛に悩まされている方はお客様でもいらっしゃいます。
腰が痛くなると、「腰が痛いからマッサージした方がいいですか?」と質問されます。もちろん、腰そのものに原因がある場合もあります。ただ、パーソナルトレーニングの現場で見てきた中では、腰だけを見ても変化しにくく、下腿やお尻まわり、股関節の動き、日頃の疲労のたまり方まで含めて見直した方がよさそうなケースが多くありました。
お客様の中で特に多いのは長い会議やデスクワークで長時間座り続けた後、出張やゴルフで長時間の移動、一日の歩数が多かった、などの後に違和感や痛みを感じるというケースです。座り過ぎと歩き過ぎは正反対のようですが、どちらも同じ姿勢や動きが長く続き、その日の身体の余力を超えてしまった状態とも考えられます。
このブログでは、診断や治療の話ではなく、腰の痛みを考えるときに「腰以外にも目を向けてみる」という視点をご紹介します。
腰痛は一つの病名ではありません
腰痛には、椎間板ヘルニアや骨折、感染症など、医療機関で確認すべき病気が関係するものがあります。
一方で、腰痛の多くは、画像や検査だけで痛みの理由を一つに決めにくい「非特異的腰痛」とされています。WHOも、腰痛のおよそ9割はこの非特異的腰痛に当たるとしています。ここでいう非特異的腰痛は、「筋膜性腰痛」と同じ意味ではありません。筋肉や筋膜の張り・こわばりが関係することはありますが、それだけで説明できるとは限らず、仕事や生活、睡眠、活動量、痛みに対する不安など、さまざまな要素が重なっていることがあります。
だからこそ、「姿勢が悪いから」「◯◯の筋肉が弱いから」と、理由を一つだけに決めてしまわない方がよさそうです。痛い場所だけでなく、その前後にどのような負荷や疲労が重なっていたのかも含めて考えることが大切なのかなと思います。
座り過ぎと歩き過ぎに共通すること
長い会議やデスクワークでは、腰を大きく動かさないまま、同じ姿勢が続きます。座る姿勢そのものが悪いというよりも、座ったまま身体を動かす機会が少ないことや、疲れていても同じ姿勢を続けざるを得ないことが、負担の偏りにつながる場合があります。
一方、ゴルフや出張では、普段より長い時間歩いたり、立ったり、荷物を持ったりすることがあります。たくさん歩くこと自体が腰に悪いわけではありません。ただし、普段の活動量を大きく上回る日には、足首や下腿、お尻まわりにも疲労がたまり、歩く・支える働きが追いつかなくなることがあります。
どちらも「動かなさ過ぎ」あるいは「動き過ぎ」という言葉だけではなく、その人の体力や睡眠、前日までの疲労、いつもとの活動量の差を含めて考える必要がありそうです。筋肉は、使い過ぎたり同じ姿勢で使い続けたりすると、疲労によって張りやこわばり、いわゆる「硬さ」が出やすくなります。こうした状態が続けば、痛みとして現れることがあります。
ただし、「筋肉が硬いこと」だけが痛みの理由とは限りません。こわばりがある場所も含め
て、どこに負担が偏っているのかを見直すことが大切だと思います。
下腿とお尻まわりにも目を向ける理由
歩くとき、身体は片脚で体重を支える時間を繰り返しています。
足首や下腿は地面から受ける力に対応し、お尻の外側にある中臀筋などは、片脚で立ったときに骨盤や身体を支える役割の一つを担います。こうした働きが疲労や動きの硬さでうまく使いにくくなると、腰が代わりに頑張るような動きになることがあります。
これは「下腿が腰痛の原因」「中臀筋が弱いから腰痛になる」と決めつける話ではありません。痛みが出ている腰だけでなく、身体を支える途中のどこに負担や疲労が偏っているのかを確認する、という意味です。
実際には、足首の動き、ふくらはぎやすねの疲労、臀部や股関節の使い方、胸郭の動き、座り方や歩き方など、いくつかの要素が重なっていることもあります。
痛みが長引くと、警報が鳴りやすくなることも
痛みは、傷ついた組織だけから一方的に出るものではありません。痛みが続いたり、何度も繰り返されたりすると、痛みを感じ取る仕組みそのものが敏感になり、実際の負担の大きさだけでは説明しにくい痛みが残ることがあるようです。
これは「痛みが気のせいになる」という意味ではありません。身体の警報が鳴りやすくなっている状態に近く、睡眠、疲労、痛みに対する不安、活動量の低下なども影響し合います。
特に競技者は痛みを抱えながら練習や試合を続ける場面が多いため、慢性化した痛みでは、こうした仕組みが関係することが少なくないようです。ただし、すべてのアスリートに起こるわけではなく、組織の問題や負荷量も含めて考える必要があるのではないでしょうか。
痛みがあっても、完全に動かさない方がよいとは限らない
以前は、腰が痛ければ安静にすることがよいと考えられる場面も多くありました。しかし現在は、骨折や感染症、進行する神経症状など、医療機関で確認すべき問題が疑われない腰痛であれば、痛みが完全になくなるまで寝て待つよりも、できる範囲で日常の活動を保つ考え方が広がっています。
これは「痛くても我慢して運動する」という意味ではなく、歩く、立つ、寝返りを打つ、軽い家事をするといった日常動作を、痛みの反応を見ながら続けていくということです。
急に負荷の高いトレーニングを始めればよいわけでもありません。急性の腰痛では、特別な運動療法がすぐに痛みをなくすとまでは言えないため、まずは動ける範囲を保ち、反応を見ながら活動量を戻していく方が現実的です。
トレーニングでは「◯◯を鍛える」だけにしない
腰痛になるのは体幹が弱いから、だから強くしなくてはならないというのも昔からよく聞く話です。
体幹の働きは大切ですが、それだけを切り離して考えるよりも、足首から股関節までを使いながら立つ、歩く、しゃがむ、片脚で支えるといった基本的な動きの中で、身体全体がどう連動しているかを見る方がよい場合があります。
その人の状態に合わせて、下腿や股関節を軽く動かすことから始めるのか、臀部や脚で支える練習をするのか、段階的にスクワットやヒンジ動作を取り入れるのかは変わります。
痛みがあるときに、決まったメニューを無理にこなすことが目的ではありません。腰への負担がどの動きで増え、どの動きなら無理なく行えるのかを確認しながら、少しずつ身体を使える範囲を広げていくことが大切です。
日頃のケアで見直せること
割と見落とされがちですが、トレーニングの時間だけではなく、腰に負担がたまりやすい日の過ごし方も大切です。
長く座る日
会議や仕事の途中で、飲み物を取りに行く、手洗いに立つなど、短い時間でも姿勢を変えるきっかけをつくってみてください。腰を大きく反らしたり、強く伸ばしたりしなくても、数分立って歩いたり、足首や股関節を軽く動かしたりするだけで、同じ姿勢が続くことは避けやすくなります。
ゴルフや出張でよく歩く日
普段より活動量が増える日には、その前後の予定も含めて負荷を調整する視点が必要です。前日に脚のトレーニングを追い込み過ぎない、翌日は疲労を抜く時間をつくる、履き慣れた靴を選ぶなど、小さな工夫が役に立つかもしれません。
歩いた後に腰だけをケアするのではなく、ふくらはぎ・すね・お尻まわりの疲労にも目を向けると、自分の負担のかかり方が見えてくることがあります。
トレーニングと合わせて行いたいセルフケア
ストレッチ、フォームローラー、マッサージガンは、腰痛そのものを治すための道具というより、張りや動かしにくさを一時的に和らげ、日常動作やトレーニングに戻りやすくするための選択肢として考えるのがよさそうです。
ストレッチ
強く痛む方向へ無理に伸ばす必要はありません。下腿、お尻、股関節まわりなどを、呼吸を続けられる程度にゆっくり動かし、「少し動きやすくなった」と感じる範囲で行います。
ストレッチだけで腰痛の原因を解決するわけではありませんが、長く座った後や歩いた後に身体を動かすきっかけとしては取り入れやすい方法です。
フォームローラー
フォームローラーには、関節の動かせる範囲を一時的に広げたり、運動後の筋肉痛や疲労感を和らげたりする可能性を示した研究があります。腰を痛い一点として強く押すのではなく、ふくらはぎ、太もも、お尻まわりなど、負担がたまりやすい部分に軽く使う方が取り入れやすいでしょう。
マッサージガン
マッサージガンも、短時間の使用で柔軟性や動きやすさ、主観的な痛みの感じ方に変化が出る可能性があります。ただし、深く強く当てればよいわけではありません。
痛みが強くなる場所、しびれが出る場所、骨の出っ張りや傷・内出血がある場所への使用は避け、使った後に立つ・歩く・しゃがむといった動作がどう変わるかを確認しながら使う形が安心です。
セルフケアで一時的に楽になったとしても、それだけで終わらせず、睡眠、活動量、トレーニングの負荷も一緒に整えていくことが大切です。セルフケアは、身体を動かすための準備や回復の一部として使うとよいでしょう。
医療機関での確認を優先したい場合
腰の痛みの中には、運動や日常のケアだけで様子を見る前に、医療機関で確認した方がよいものもあります。
転倒や事故の後から痛みが強い場合、発熱や強い体調不良を伴う場合や、脚のしびれや力の入りにくさが目立つ場合などは、トレーニングより先に医療機関へ相談する形が安心です。また、痛みが長く続く場合や、何をすると悪化・軽減するのかが分からない場合も、一度専門家に確認しながら進める方がよいでしょう。
まとめ
腰が痛いとき、腰だけを見ればよいとは限りません。長く座り続けたこと、歩く量が急に増えたこと、下腿やお尻まわりの疲労、睡眠や日頃の活動量。こうした要素を一緒に見直すことで、腰に負担が集まっている理由が少し見えてくることがあります。
大切なのは、痛い場所だけを何とかしようとすることではなく、その日の身体にどのような負荷が重なっていたのかを考えることです。できる範囲で動くこと、トレーニングで身体を支える力をつくること、必要に応じてストレッチやフォームローラーなどを使うことを、無理のない形で続けていきましょう。
腰痛は、腰だけの問題ではないのかも――。そんな視点から、自分の身体の使い方や日常の過ごし方を見直してみるのもよさそうです。
※本記事は、腰痛に関する一般的な情報と、パーソナルトレーニングの現場で感じていることを紹介するものです。個別の症状の診断や治療を目的としたものではありません。痛みが強い場合、症状が続く場合、しびれや力の入りにくさなどがある場合は、医療機関に相談しながら進める形が安心です。
参考にした資料
Interventions for the Management of Acute and Chronic Low Back Pain: Revision 2021
Low Back Pain|International Association for the Study of Pain
VA/DoD Clinical Practice Guideline for the Diagnosis and Treatment of Low Back Pain
Effects of Foam Rolling on Range of Motion, Recovery and Markers of Athletic Performance
The Effect Of Percussive Therapy On Musculoskeletal Performance and Experiences of Pain



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